組込みソフトウェア開発の基礎知識│種類と事例をわかりやすく解説
2025/02/17
ODM基板開発
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組込みソフトウェアは、家電や自動車、産業機器などに組み込まれ、特定の機能を実現するためのソフトウェアです。特に基板に搭載されたマイコン(マイクロコントローラ)のプログラムとして機能し、機器の制御やデータ処理を担います。
近年はAIやIoT技術との融合が進み、組込みソフトウェアの役割はますます重要になっています。
本記事では、組込みソフトウェアの種類や具体的な事例をわかりやすく解説します。また開発に使用される言語や基礎的な開発プロセスについても紹介します。
組込みソフトウェア開発の基礎知識│種類と活用事例
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組込みソフトウェアとは、特定の機能を持つハードウェアに組み込まれて動作するソフトウェアのことです。パソコンやスマートフォンのように汎用的なソフトウェアとは異なり、組込みシステムの一部として特定の処理を実行するために設計されています。
例えば家電製品の電子レンジや洗濯機、自動車のエンジン制御システムなど、私たちの身の回りには多くの組込みソフトウェアが活用されており、これらのシステムではハードウェアの特性を理解した上で、適切な制御プログラムを開発することが重要です。
組込みソフトウェアの主な特徴には、以下のようなものがあります。
機器の動作を正確なタイミングで制御する必要がある(例:自動車のエンジン制御)
◆低消費電力
バッテリー駆動のデバイスではエネルギー効率が重要(例:ウェアラブルデバイス)
◆安定性と信頼性
長期間の運用に耐えうる設計が求められる(例:医療機器)
ソフトウェアの種類
組込みソフトウェアは種類によって使用する言語や開発プロセスが異なるため、目的に応じた設計が重要です。
主に以下の3つの種類があります。
①制御系ソフトウェア
機器のハードウェアを制御するためのプログラムです。リアルタイム性が求められるため、主にC言語が使用されます。
<例:自動車のエンジン制御、家電製品のモータ制御、産業用ロボット>
②通信系ソフトウェア
ネットワーク通信やデータのやり取りを管理するソフトウェアです。C言語、C++、Pythonが使用されることが多いのが特徴です。
<例:Wi-Fi機能を持つスマート家電、車載ネットワーク(CAN通信)>
③GUI系ソフトウェア
ユーザーが機器を操作するための画面(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)を構築。C++、Python、JavaScriptなどが使用されます。
<例:カーナビのタッチパネル、デジタル家電の操作画面>
事例活用
組込みソフトウェアはさまざまな分野で活用されており、具体的には以下のような事例があります。
◆家電製品
エアコン:温度センサーと連携し、適切な冷暖房制御を実施
電子レンジ:マイコンが食品の重量や時間を計算し、適切な加熱を行う
スマート家電:IoTと連携し、スマホアプリから遠隔操作が可能
◆自動車
エンジン制御:燃料噴射や点火タイミングの最適化
先進運転支援システム(ADAS):カメラやセンサーと連携し、自動ブレーキや車線維持を支援
車載インフォテインメント:カーナビやオーディオシステムの制御
◆産業機器
工作機械:CNC(コンピュータ数値制御)を用いた精密加工
自動倉庫:AIと組み合わせたロボット制御による物流の効率化
工場のIoTシステム:リアルタイムで機器の動作状態を監視し、自動化を実現
組込みソフトウェア開発の工程と必要な知識
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開発工程
組込みソフトウェアの開発では、ハードウェアと密接に連携するための明確な設計と品質管理が重要です。
一般的な開発プロセスは、以下のような工程で進められます。
【工程1】要件定義
- どのような機能を実装するかを決定
- ハードウェアの仕様や制約を考慮
<例:センサー情報を取得し、モータを制御するプログラム>
【工程2】基本設計(アーキテクチャ設計)
- ソフトウェアの階層構造を決定
<例:センサー制御モジュール、データ処理モジュール、通信モジュールの分割>
【工程3】詳細設計(モジュール設計)
- 各モジュールの具体的な仕様を決定
- 関数や変数の設計を行い、設計書を作成
【工程4】コーディング(実装)
- 設計書に基づいてプログラムを作成
- マイコン用の組込み言語(C言語、C++など)を使用
【工程5】試験(テスト)
- 単体試験:個々のモジュールが正常に動作するかを確認
- 結合試験:モジュール同士を組み合わせて動作確認
- システム試験:全体の動作をチェックし、ハードウェアと統合
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設計書の種類
組込みソフトウェアの開発では、開発プロセスをスムーズに進め、かつ品質向上のために設計書が不可欠です。
設計書は主に以下の種類に分かれます。
・基本設計書(アーキテクチャ設計書)
ソフトウェア全体の構造を定義します。開発の指針となるため、エンジニア全員が理解できる形で作成することが重要です。
<例:どのモジュールがどの役割を持つのかを明確にする>
・詳細設計書(モジュール設計書)
各モジュールの具体的な動作を記述します。
<例:関数のパラメータ、変数の型、処理フローなどを細かく定義>
コーディングに必要な知識
さらに組込みソフトウェアのコーディングには特有の知識が求められ、以下のような項目が挙げられます。
◆リアルタイム処理
機器の動作をミリ秒単位で制御する必要があります。そのためリアルタイムOS(RTOS)を使用します。
<例:自動車のブレーキ制御では、数ミリ秒の遅れが事故につながる>
◆メモリ管理
マイコンのメモリは限られているため、効率的な管理が必須です。動的メモリ確保(malloc)を避け、スタック領域を適切に制御します。
◆電力制御
バッテリー駆動のデバイスでは、消費電力を抑える工夫が必要です。スリープモードや低消費電力モードを活用します。
組込みソフトウェアの開発環境とよく使われる言語
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組込みソフトウェアの開発では、用途に応じて適切なプログラミング言語を選択することが重要です。
組込みシステムはハードウェアのリソースが限られているため、効率的な動作を実現する言語が求められます。
以下に組込みソフトウェア開発でよく使われる言語とその特徴を紹介します。
言語とその特徴
●C言語
【特徴】
・最も一般的な組込み開発言語であり、多くのマイコンで使用可能
・ハードウェアの直接制御が容易で、処理速度が速い
・組込みOS(RTOS)やファームウェアの開発にも適用される
●C++
【特徴】
・C言語の機能を拡張し、オブジェクト指向プログラミングを導入
・GUI開発や通信制御など、比較的高度な組込みシステムで利用
・STL(標準テンプレートライブラリ)を活用できるが、メモリ管理には注意が必要
●Python
【特徴】
・組込みLinux環境(Raspberry Piなど)や、AI・IoT関連の開発で使用される
・スクリプト言語のため、開発のスピードが速い
ただし、C言語やC++と比較するとリアルタイム性や処理速度は劣る
●Rust
【特徴】
・安全性とパフォーマンスを両立した比較的新しいシステムプログラミング言語
・メモリ安全を確保しながら、高速な処理が可能
・今後の組込み開発での採用が増えると期待されている
適切な開発環境
また組込みソフトウェアを開発するには、適切な開発環境(ツールチェーン)が必要です。主な開発ツールには以下のようなものが挙げられます。
◆統合開発環境(IDE)
※コーディング、コンパイル、デバッグを統合して行える環境
・Keil µVision(ARMマイコン向け)
・IAR Embedded Workbench(広範なマイコンに対応)
・Eclipse + GCC(オープンソース環境)
◆クロスコンパイラ
※開発用PC(ホスト環境)でプログラムをコンパイルし、ターゲットのマイコンで動作するバイナリを生成するツール
・GCC for ARM(ARM系マイコン向け)
・Clang(LLVMベースの高性能コンパイラ)
◆デバッガ
※実機での動作確認を行うためのツール
・GDB(GNU Debugger)
・SEGGER J-Link(組込み開発向けデバッグツール)
開発ツール
さらに組込みソフトウェア開発では、実際のマイコンで動作を確認するために、さまざまな開発ツールが用いられます。
以下に代表的なツールを紹介します。
◆シミュレータ
- 実機なしでプログラムの動作を確認できるツール
- ソフトウェア上でCPUの動作を模擬し、基本的な動作確認が可能
ツール例:QEMU(汎用シミュレータ)、Proteus(回路シミュレーション機能付き)
◆エミュレータ(ハードウェアエミュレータ)
- 実際のマイコンと同等の環境を再現する装置
- デバッグ機能が充実しており、詳細な動作検証が可能
ツール例:Renesas E2エミュレータ(ルネサス製マイコン向け)、NXP MCU-Link(NXP製マイコン向け)
JTAGデバッガ
- マイコンの内部を直接デバッグできるツール
- 実機上での動作確認やフラッシュメモリの書き込みに使用
ツール例:SEGGER J-Link(多くのマイコンで利用可能)、ST-Link(STMicroelectronics製マイコン向け)
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以上、本記事では、組込みソフトウェアの種類や活用事例を紹介し、開発の基本プロセスや必要な知識について解説しました。
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