EMS(電子機器受託製造サービス)とは?メリット・デメリットをわかりやすく解説
2024/01/31
コラム
労働者人口が減少していくわが国のものづくりを取り巻く環境は、厳しくなっています。今後、厳しい時代を製造業が駆け抜けていくためには、効率的なものづくりが求められています。 そこで今回はEMSとは何か、EMSのメリットとデメリット、 EMSの今後の展望などについてわかりやすく解説していきます。
EMSとは
EMSとは、電子機器受託製造サービス(Electronics Manufacturing Service)の略称です。自社ブランドを持たずに、複数の企業から電子機器の生産を受託するサービスをいいます。
電子機器メーカーなどのクライアント企業から依頼を受けたEMS企業は、製品設計の初期段階から関わり、クライアント企業に代わって、設計・試作から、部品調達、製造、検査、出荷・流通、保守サービス(アフターサービス)までを一括して受託します。クライアント企業は自社製品の開発と製造をEMS企業に任せることにより、自社の経営資源をコア業務に集中させることができます。
EMSのビジネスモデルは生産設備などの標準化やクライアント企業、サプライヤー[※1]、EMS企業の3社間でリアルタイムに情報を共有しながら、サプライチェーン・マネジメント(SCM)[※2]によって開発・生産のスピードと在庫削減を追求する仕組みです。
※1 製品の開発や製造に必要な原材料や部品などを供給する事業者をいいます。
※2 原材料や部品の調達から製品の生産・販売まで、サプライヤーからユーザーまでの一連の取引・業務に関する情報を共有することで、必要な量を必要なタイミングで過不足なくスピーディーに供給できるように管理する手法をいいます。
EMSは、コンピューター、通信機器、産業用機器、家電、医療機器、車載機器などに幅広く利用されています。EMSでは、最新の技術や設備を駆使することで高機能・高性能な製品が製造可能です。高度な技術と厳格な品質基準が求められる製品には、EMSの利用が適しています。
EMS企業としては、米国のアップル社のiPhoneや任天堂のゲーム機Wiiなどの製造を請け負った台湾の鴻海(ホンハイ)、精密工業(フォックスコン)などが有名です。
OEM(相手先ブランドによる製造)との違い
EMSに類似する概念としてOEMがあります。OEMは、EMSと混同されて用いられることがよくあります。
OEMとは相手先ブランドによる製造(Original Equipment Manufacturer)の略称です。製造を発注した相手先(クライアント企業)のブランドにより販売される製品を製造する形態です。OEMでは特定の製造工程のみを受託するため、部品は通常クライアント企業が調達します。それに対してEMSでは設計・試作から、部品調達、製造、検査、出荷・流通、保守サービスまでを一括して受託します。
また、EMSによる請負製品は電子機器に特化していますがOEMでは請負製品を特化していません。
EMSのメリット
EMSの主なメリットは、次のとおりです。
【メリット1】 コストを削減できる
近年、消費者ニーズや市場の目まぐるしい変化によって製品のライフサイクルが短くなりつつあります。技術の進歩も著しいため、開発当時でこそ新しかった技術もあっという間に陳腐化してしまうことがあります。急速に変化し続ける消費者ニーズや市場のスピードに合わせて設備投資するのは、極めて多くのコストがかかるため困難です。
EMSでは、製品の生産に必要な設備および人員がそろっているため、自社で生産設備を導入したり新たに人を雇ったりする必要はありません。EMSを活用すれば、生産設備の投資および固定費(維持費)人件費を削減できます。それによって、自社の経営資源を商品企画や研究開発、マーケティングなどのコア業務に集中させることができます。
【メリット2】 リスクを事前に回避できる
前述したとおり、市場ニーズが目まぐるしく変化する現代においては、新たな設備投資にはリスクを伴います。設備投資に失敗すれば、変化に対応できずに大きな損失を抱え業績が悪化するおそれがあります。 EMSでは、市場ニーズの変化に迅速かつ柔軟な対応が可能な生産設備と体制が整っています。EMSを活用すればリスクを事前に回避できます。
EMSのデメリット・注意点
一方、EMSにはデメリットと注意点もあります。
【デメリット・注意点1】 現場に直接指示できない
クライアント企業が自社内で設計から生産まで一連の工程を完結させる場合は、設計部門と生産部門とが連携しながら工程を遂行します。 しかしながら、EMSでは製造などをEMS企業に一任しているため、委託するクライアント企業が現場に直接指示できません。EMSを利用する場合、自社内と比べて密なコミュニケーションや調整が取りにくくなるためクライアント企業のニーズが十分に反映されないことがあります。
【デメリット・注意点2】 トラブル発生時、対応に時間がかかる、責任の切り分けが難しい
製造時などにトラブルが発生した際、メーカーは速やかに原因の究明に当たったり設計工程や生産工程を変更したりすることが求められます。しかし、EMSの場合はトラブルが発生したときクライアント企業内よりも多くの調整などが必要になるため、対応に時間がかかるおそれがあります。 また、製品に問題が発生した場合、責任の所在がクライアント企業側かEMS企業側のどちらにあるのか責任の切り分けが難しい場合があります。クライアント企業側とEMS企業が良好な関係を築き上げるためにも、事前にトラブル発生時の責任の所在と対応を取り決めておくことが重要です。
EMSの今後の動向
為替の円安やチャイナリスクなどの影響もあり、日本国内のEMS市場は衰える気配はありません。さらに、日本を含めて世界では電子・電気機器業界を中心に多くのメーカーが開発・生産のスピードアップとコスト削減のため自社生産を減少させており、世界的な製造業の分散化がEMS業界にとって追い風となっています。
世界のEMSの市場は、右肩上がりに成長し続け今後さらに拡大していく傾向にあります。2036年には12,000億米ドル(約170兆円)に達すると予測されています。
近年では、EMS企業は付加価値の高い品目の生産に注力することで、事業の発展と収益の向上を図っています。さらに、受託生産にとどまらず独自で製品を開発・製造・販売するなど、事業の多角化を進める動きも広がっています。
ニッポーは、高品質と高信頼性を強みとして付加価値の高い商品開発に取り組み続け、おかげさまで設立60周年を迎えることができました。これからも、電子・電気機器などの開発・製造・販売を通して製造業をはじめとするさまざまな業界の生産性および品質の向上に貢献してまいります。
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