点滴潅水チューブと選び方と肥料吸収が良くなる水質確認の方法

2024/07/22

農業用コントローラ

前回の記事では栽培シーズン中にできない「排水対策」や「土壌管理」についてご紹介しました。根が健全で呼吸ができ、吸水と肥料吸収が充分にできてこそ地上部の制御がうまくいくため、オフシーズンにしかできない“大切な準備”です。

▼前回の記事はこちら

今回の記事では今の時期にしっかり検討しておくべき潅水チューブの選択と、肥料吸収に影響が大きい水質の注意点についてご紹介します。

なぜ散水チューブではいけない?

日射比例制御の過不足ない潅水には「散水チューブ」より「点滴チューブ」が適しているということはイメージし易い話だと思います。

まず、日射の強度や飽差によって葉から蒸散して減った水分(必要量)を細かく補うためには、『少量潅水が可能なうえ吐出量が正確でムラがない』性能が必要です。
たとえば50メートルの畝の場合、散水チューブでは適正水圧の条件下でも畝の手前と奥で5割前後のムラが出ます。[図1:散水A、散水B]

▲[図1] 潅水チューブタイプ別給液精度<引用元:福岡県農林業総合試験場 井出治・森山友幸・姫野修一・伏原肇「施設園芸用点滴チューブの種類別給液特性」(2003)>

このように大きな水量のムラがあるまま何度も潅水を重ねていくと、畝の手前と奥の水量の差が開いていき、生育にも大きな差が出てしまいます。これは“散水チューブの水圧が弱かった”いうことでもないようです。[図2:散水B(0.01MPa/0.03MPa/0.05MPa)]

▲[図2] 吐出圧力を変えても散水チューブのムラは解消しない<引用元:福岡県農林業総合試験場 井出治・森山友幸・姫野修一・伏原肇「施設園芸用点滴チューブの種類別給液特性」(2003)>

点滴チューブであれば(モノにもよりますが)潅水ムラ、生育ムラが少ないため圃場全体の作物の潅水による生育コントロールが容易になります。

点滴チューブの必要性を4つに分けて詳しく解説します。

①水がゆっくりと土に浸込み、根圏の酸素を追い出さない

根の呼吸に大切な酸素を追い出さない、つまり水没させるほどの乱暴な潅水をしないということです。常に呼吸できる土壌中の空間を保ちながら水と肥料を補給します。

②低水量なので根が浸出した有機酸を除去しない

根は周辺の肥料分を溶かして吸収するために自ら有機酸を浸出させています。散水タイプの潅水ではこの大切な酸までも洗い流してしまい肥料吸収の邪魔をしてしまいます。

③地表面の水分が少ないため、病害の発生を抑え雑草も生えにくい

地表面に水分が残る状況を作らないことで、病害発生を抑えるとともに水の蒸発による損失を少なくします。さすが砂漠地帯で発明されたチューブです。「これは空間が過剰に乾燥するのでは?」との心配は不要です。作物が吸い上げて蒸散放出した水蒸気が充分であれば作物周辺の範囲は異常乾燥とはなっていません。さらに、地表面に水分が少なくなるために雑草の生育は抑えられます。除草のコストと手間を少なくできます。

④潅水ムラが少なく、潅水量・施肥量が計算できる

電卓で弾いた通りの水と肥料を正確に施用することができ、根圏を思うままにコントロールできます。

ここまで理由が多ければ“点滴タイプの潅水チューブ一択!”というのも納得する方が増えるのではないでしょうか。
例えばアスパラガスやキュウリなど“水で育てる”といわれる作物でも優良事例が増えています。時間と回数をかけて必要な水量を確保でき、根にもストレスがなく、日射比例潅水で気孔は開き続けることができるので、点滴チューブはほとんどの作物で優位性は高いといえます。
ただし手動潅水では日射比例潅水と点滴チューブの恩恵を受けるのは限定的かもしれません。

潅水チューブは「値段が高けりゃいい」ってものではない

先ほど点滴チューブの「モノによる」と云ったのにはワケがあります。
「点滴チューブも価格が高ければ給液の精度も高い、万能である」と信じたいところですが、実際には硬質(肉厚)で1メートルあたり数百円もする点滴チューブでも長い畝ではなかなか使えないという報告があります。
ネームバリューで信用されている某ブランドのチューブでも、メーカー推奨圧力75mを超える畝末端部の水圧を確保できずに大きく潅水ムラが出ています[図3]。これは長い畝だけではなく、短くても本数が多い(総延長が長い)場合には起こり得るとされています。一方、廉価な軟質点滴チューブの数値が安定しているのは注目に値します。

▲[図3] 軟質、硬質点滴チューブでの吐出量ムラの比較<引用元:福岡県農林業総合試験場 井出治・森山友幸・姫野修一・伏原肇「施設園芸用点滴チューブの種類別給液特性」(2003)>

そのような中、九州のトマト産地のごく一部で低価格ながら給液精度が高い点滴チューブが口コミで広まっていました[図4左下]。数ヶ所で反復確認したところ、メジャー級の商品間で比較した中で給液安定性は群を抜いていました。点滴チューブは鉄や不純物で点滴の孔が詰まることがあるため、毎年交換できる“低価格”という点も重要です。それらすべてを満たしていたこともあり、ニッポーでも取り扱っております。詳しく知りたい方はお問い合わせください。

▲[図4] 点滴チューブの5分潅水量のムラ計測

肥料吸収が良くなる?適切な水質の確認方法

▲イメージ画像

「土壌分析は毎年やっているけど、水質の分析はやったことがない。」これは施設園芸あるあるです。
主な分析項目と必要性は次の通りです。

①pH(酸度)

アルカリに傾くと微量要素などの肥料は効きません。過剰に酸性に傾くと根の障害や土壌の劣化につながります。通販で販売されている安いpH計測器でも目安としての使用は可能です(しっかり校正をしながら使ってください)。作物によって好みの数値は変わりますがpH5.5~6.5の範囲に入れておきます。

【対策】改善方法としては一度貯水タンクに溜めて、酸性に改良する場合は硝酸、リン酸、硫酸で中和します。バケツなどで水と酸をどれくらいの割合で入れればpHが狙った範囲にはいるかを調べ、貯水タンクに応用してください。もし「重炭酸イオン」濃度がわかればぜひ調べてみてください。「重炭酸イオン」がpHの変動を混乱させるので20~40ppm範囲に中和しておくと改善できます。

②鉄、マンガン

液肥タンクや貯水タンクの内側に黄土色の変色がある場合は“鉄分が過剰な原水”ということになります。点滴チューブやミストノズル目詰まりの原因となるため厄介です。

【対策】貯水タンクに一度溜めます[図5]。のように足場パイプとコンパネ、ハウス用フィルムで組んだ簡易貯水タンク([図5]は容量20トン、DIYで組めます)に、前日から満水にしておいて、一晩中大型のエアポンプで曝気すると鉄マンガンが沈殿します。その後フィルターを通して潅水することで完全とはいきませんが低コストで鉄対策が可能になります。

▲[図5] 用水・地下水水質代替の雨水利用

③水源の水量不足

不純物や病原菌、化学物質など水質が悪く改善が見込めない場合、ハウス天井に降った雨を貯水することで水必要量の3割~6割を賄うことが可能です[図5]。雨水は不純物や養分の含量が少なく扱いやすいのですが水量が足りないことがあります。

【対策】不足分は従来の水源と併用するなど工夫が必要になります。



以上、潅水チューブの選び方と、肥料吸収に影響が大きい水質の注意点についてご紹介しました。さらに詳しく聞いてみたい方はぜひお気軽にお問い合わせください。

【執筆】
アグリアドバイザー 深田正博

熊本県野菜専門技術員・普及指導員の経験があり、現在は株式会社ニッポーのアグリアドバイザーとして現場目線の栽培指導やセミナーの講演を行う。

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