日射センサーの適切な設置位置とは。ハウス内外に届く日射量の違いを解説
2024/02/16
農業用コントローラ
従来、ハウスの環境制御を行う機器の日射センサーは屋外に設置することが一般的でした。その中で近年、日射比例潅水に限定した制御機器の普及が拡大しています。この場合は従来とちょっと違う観点が必要なことが分かってきています。
今回はハウス内外に届く日射量の違いと、日射センサーを屋内(作物の位置)に設置するべき理由をお話しいたします。
日射センサーの用途
現行の国内に流通する農業用日射センサーの役割はいくつかの用途に分かれます。その中で主なものを2つ挙げると、
①遮光カーテンの開閉、日射比例潅水、日射強度による温度やCO₂調節など、複合・統合制御に使用する日射センサー。
②日射比例潅水の制御に限定した日射センサー。
です。
ニッポーでは双方の日射センサーの役割と活用法を適切に使い分けています。
①複合・統合制御に使用する日射センサーの場合
この場合、複合・統合制御する日射センサーは従来通り「屋外」に設置しています。これはとくに遮光カーテン開閉の際には「屋外」日射量の変化を基に判断する必要があることがおもな理由です。これは各国共通の考え方なので分かり易いと思われます。
②日射比例潅水の制御に限定した日射センサーの場合
そもそも遮光カーテンの開閉制御はしないので屋外日射を計測する必要性は低いのですが、現状は日射センサーを屋外に設置している例が多く、その測定数値を「天井フィルムの光透過率とハウスの骨材率など」をもとに屋内日射に換算している事例が多くあります。
しかし実際は、屋外からハウス内に入るまでの太陽光は「様々な障害」により減少しながら最終的に葉に届きます。
ハウス内に届く日射量の違いと日射センサーの正しい設置位置
屋外からハウス内に入るまでの太陽光は「様々な障害」により減少しながら葉に届きます。それらの要因として以下の通りです。
①季節や時刻で変わる日射の「入射角度」
季節によって太陽光の入射角度は[図1]の様に大きく変化します。冬至の日昼、太陽が最も高い位置にある時刻でも入射角は30度と浅く、その午前・午後は0、10、20度など水平に近い浅い角度でハウス天井フィルム表面にあたり、さらに刻々とその角度は変化しています。
フィルムの表面に浅い角度で当たる日射はハウス外への乱反射で減少し、さらにフィルム素材を斜めに通過する吸収損失によってもハウス内に入る光は減少します。
▲[図1]季節による太陽光の入射角度(※南中:昼の最も高い入射角度)
②ハウスの向き
ハウスの向きの影響は、南北向き設置(南北棟)が多い越冬栽培のハウスにとくに強く現れます。[図2]のグラフを見ると、南北棟は東西棟に比べ日射量が15%減少しており、その要因として天井表面のすべての面が、南からの太陽光を浅い角度で受けています。それに対し、東西棟は天井南面部分が角度の浅い日射をうまく捉えることができます。これらの理由から、“いちごや葉菜類などの平面作物の東西棟側は採光性が有利”というデータもありますが、連棟ハウスの場合は常に谷の影となる部分が存在することもあるため、ケースバイケースです。
▲[図2]ハウスの向きによる日射透過率の違い(右グラフの90度が南北棟、0度が東西棟)<引用:古在豊樹(千葉大学)農業気象 特別号より>
③フィルムの経年劣化、汚れ
皆さんも長年の現場経験でお分かりの通り、フィルムの経年劣化や汚れで日射量が大きく減少します。POと比較すると、とくに農ビの透過率は悪化します。フィルムの経年劣化で「10-17%の損失例」、加えて汚れで「7-19%の損失例」が示されています。
※「農業用ポリオレフィン系フィルム(PO)ハウスの微気象特性(平成8年度農業環境技術研究所 環境資源部 気象管理科 気象特性研究室)」より
④天井フィルム裏面の結露
わずかに結露(0.1mm厚)した場合でも「10%の光損失」があったとのデータがあります。[図3]
▲[図3]ハウス天井面に付着した水滴の水膜の厚さと日射透過率の関係(縦軸:透過率/横軸:結露厚) <引用:農業環境技術研究所「農業用ポリオレフィン系フィルム(PO)ハウスの微気象特性」>
今まで盲点となっていたこれらの光損失要因を並べると
・太陽光の「入射角」での損失:10-20%
・「ハウスの向き」での損失:15%
・フィルムの「経年劣化」損失例:10-17%
・フィルムの「汚れ」損失例:7-19%
・フィルムの「結露」損失:10%以上
これらの損失要因のみの積算で「48%~55%損失」が加わって頂部葉面に届いている可能性があります。
※とくに入射角の影響は時々刻々変化するので単純な計算では把握できません。
※従来の方法(単純に「フィルムの遮光率10-15%、フレーム率10-30%」などで屋外日射量を屋内日射量に換算する)は現実と乖離した数字で判断している可能性があります。
このことから、日射センサーは屋内(作物の位置)に設置することが適切といえます。ハウス内の作物の位置(例えば成長点付近)に日射センサーを設置することで、複雑な障害を経た最終損失後の日射強度がシンプルに直接計測できるのです。
ハウス骨材の陰が与える日射測定への影響と考え方
各地の講演にお伺いすると、農家さんから「他の研修会で日射センサーを屋内に置くのは間違いという指摘をもらい、迷いがある。」との話を聞くのですが、前述の『光損失計算の複雑さを解消するには、屋内日射計測がシンプルで精密である』旨の説明をさせていただくと全員ご納得いただけます。
ここからは、よくご質問をいただく「日射センサーが骨材の陰に入ると日射強度が大きく上下するから不正確なのではないか」という疑問について考え方をお話しします。
結論から言うと、作物の葉も同じように骨材の影の影響を受けています。その影は時刻によって場所を移していくため、影になるタイミングは異なりますが、平均すると同じ程度の骨材の陰をすべての葉も日射センサーも受けているといえます。
[図4]の大きく上下する点線のグラフは、屋内設置の日射センサーが「透明フィルム」を通して受けた日射、骨材の影の影響を示しています。ハウス内の葉も同じような影による日射の上下変化をしており、並べてみる(多項式近似)とほぼ同じ日射積算値を示すことが分かっています。
▲[図4]屋内外の日射量の変化<引用:高倉直「温室・ハウスで何のために何をどのように計測するのか」>
つまり、日射センサーが骨材の影の影響を受けることは、葉と同じ光条件・影条件を捉えているという最も正確な計測をしていることであり、正確な日射比例潅水を行うためにはこの数値をもとに蒸散量推測、飽差での補正を行うことが必要です。
国内の「日射比例潅水のみに使用する日射センサー」という特殊事情に合わせた計測方法は、オランダ由来の制御の考え方には出てこない部分です。
ここで屋内日射量による日射比例潅水の実践において注意することは、従来の屋外日射積算量の尺度とは大きく異なります。1日の「屋内積算日射量」は「屋外」のそれと比較すると半分前後になることが多いようです。これまで屋外日射積算1.5メガジュールごとに潅水していたとすると、その半分近くの積算日射量ごとに潅水することとなり、設定値もそれに沿って変わります。
いかがでしたでしょうか。日射量は作物を育てる上で重要な指標の1つです。ハウス内外に届く日射量の違いを理解し、作物が必要としている量の潅水を行いましょう。
他にも、ニッポーの農業用コントローラは、ハウス内の環境を正確に把握し制御するための豊富な機能を備えています。ハウス栽培の環境制御をご検討の際にはお気軽にご相談ください。
【執筆】
アグリアドバイザー 深田正博
熊本県野菜専門技術員・普及指導員の経験があり、現在は株式会社ニッポーのアグリアドバイザーとして現場目線の栽培指導やセミナーの講演を行う。