きのこ種菌の種類と選び方~接種のコツを聞きました~

2024/07/05

きのこ栽培システム

椎茸やキクラゲにもそれぞれに品種があります。育つきのこの大きさや形だけではなく、栽培サイクルなど栽培方法も異なります。ではどのような品種を栽培したら良いのでしょうか?これは種菌を作るメーカーによってそれぞれ『種菌の特徴』が異なるため、ご自分の栽培モデルや作りたいきのこのイメージに合う“相性が良い種菌”を見つけることが重要です。この記事では菌床作りを始めたい方に向けて、七会きのこセンターの渡邊さんに伺った種菌の選び方と接種のコツをご紹介します。

種菌の種類と選び方①「全面栽培と上面栽培」

種菌(しゅきん)とは、きのこの元になる菌のことで、培養した菌糸や胞子の塊などから出来ています。おが粉・穀物・水を混ぜて作られた培地に種菌を植え付ける(接種する)ことで、菌床(きんしょう)が完成します。


ここからは椎茸栽培を例に解説していきます。
まず、きのこの発生方法には大きくわけて「全面栽培」と「上面栽培」の2通りがあります。
全面栽培はその名の通り菌床の全面からきのこを発生させる方法です。上面栽培は菌床の上から2/3のビニールを剥がし、菌床の上面部からのみきのこを発生させます。(残り1/3には水を溜めて、常に菌床が水を給水できる状態にします)


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全面栽培のメリット

一度の発生で採れる収穫量が多いのが特徴です。上面栽培の方が全面発生よりも大きな施設が必要になります。

上面栽培のメリット

上面部からきのこが発生しやすいため、幅を狭めてたくさんの菌床を並べることができます。発生する場所が限られているため、芽かきや収穫の手間が減ります。

菌床1個(2.5㎏)あたりの収穫量は決まっており、発生操作の回数にもよりますがおおよそ800グラムと言われています。車のガソリンと同じで、菌床のもつパワーには限度があり、サイクル2回目、3回目とだんだん収穫量が減っていきます。全面栽培の場合、菌床がもっているパワーを一気に使うため、短い期間でたくさん収穫できます。回転効率が良く売上にもつながりますが、栽培管理の人手も必要です。また、その分の設備の稼働率も上がりますが、メリハリをつけて栽培することでランニングコストを下げることも可能です。
一方、上面栽培は “省エネ栽培”なので長く収穫し続けることができます。また、全面栽培の様に浸水槽に菌床を丸ごと沈める浸水作業がないため、手間が少ないのが特徴です。

種菌の種類と選び方②「空調栽培と自然栽培」

▲空調栽培

全面栽培か上面栽培か選んだ後は、エアコンなどの空調機器を使った「空調栽培」か四季の変化を利用した「自然栽培」か選択します。
空調栽培は短い期間で発生を促し、どんどん収穫していくスタイルなので、発生期間も培養期間も短く回転効率を重視した品種を選びます。自然発生は発生期間も培養期間も長く、接種から発生まで150~180日程度かかる品種もあります。四季の変化を利用するため栽培の手間がかかりますが、空調機器を使わないためランニングコストを抑えることができます。秋や冬など需要がある時期に合わせて出荷することができるため、秋冬の中低温期に安定した発生が見込める品種を選定します。

野外で行う椎茸栽培には「原木栽培」という栽培方法があります。原木栽培は丸太に種駒を打ち込み、伏せこみを行い、きのこ発生までに2~3年ほどかかります。その点菌床栽培は1年ですべてのサイクルが完結できるため、自然災害や害菌汚染のリスクが下がります。

種菌の種類と選び方③「売り先が求めるサイズと栽培サイクル」


栽培方法を選択するのと同時に販路開拓が重要になります。
代表的な販路は市場(農協)・農産物直売所・飲食店・インターネット販売などがあげられます。各販売先によって求められる椎茸のサイズや量が異なるため、自身の栽培計画と顧客のニーズに合ったサイズ・収量を確保できる種菌選びを行う必要があります。
例えば、大きくて高付加価値の付いた贈答用椎茸を販売したいと思っていても、その需要というのは全体の数%程度であり流通の大半は他の生鮮野菜と同様にMサイズやLサイズといった普段小売店で見かける規格に準じたサイズが売り上げの大半を占めてきます。
種菌ごとに【Mサイズが発生しやすい物】【Lサイズが発生しやすい物】等がありますので顧客に必要とされているサイズの見極めが重要になるでしょう。
Mサイズが発生しやすい種菌を使用していても、Lサイズや2Lサイズ又はそれ以上のサイズを発生させることも栽培管理によってはできますので、あくまで目安として選びましょう。
また、培養期間についても短いもので90日程度長いもので110日程度と幅が広く、発生室や培養室の大きさによっても栽培サイクルが異なるため、入念な栽培計画が必要です。

種菌接種のコツ


種菌の接種は接種室(クリーンルーム)にて機械で行います。
ここで一番大切なことは「害菌を入れないこと」です。通常、菌は肉眼で見る事はできません。今目の前に青カビの菌があってもわかりませんよね。空気中の雑菌も人や物と同じで地球の重力によって引っ張られ下に落ちてきます。種菌の入った菌糸瓶の口を上に向けておくと青カビが混入するリスクがある(蓋をしていても開けたときに侵入のリスクがある)ため下向き(またはやや斜めに傾けた状態)で取り扱います。
一番気を付けなくてはならないのは“人に付着している害菌が混入する”ことです。上から下へ菌が落ちてくるイメージで、一挙手一投足に注意し、動きの導線も徹底します。接種室(クリーンルーム)内では沢山の菌をもつ人間が最も異物で危険な存在なのです。ちょっとくらい私服のまま入っても大丈夫ではないか?という考えは捨て、除菌・殺菌を徹底し害菌汚染のリスクに備えましょう。

以上今回は種菌の選び方をご紹介しました。
きのこ栽培は非常に多くの工程が求められます。設備や機器ももちろん重要ですが、それらを操縦し栽培を行う生産者には栽培以外にも販路開拓や経営計画など乗り越えなくてはならない課題が山積みです。
きのこ栽培用の菌床を製造する施設にはイニシャル・ランニング共に非常に多くのコストがかかります。就農の第一歩目は、菌床を購入し栽培技術を磨きながら安定した経営を目指し次のステップとして菌床製造施設の建設に着手するのが正しい方法と言えるのではないでしょうか。

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